さすがにアヒージョ

最愛の人が何人もいるタイプ

恩田陸「木曜組曲」感想


恩田陸著 「木曜組曲」読了。

木曜組曲 〈新装版〉 (徳間文庫)

木曜組曲 〈新装版〉 (徳間文庫)

耽美派の大家、小説家の重松時子が死んだ。

彼女が死んだ木曜日、主人なき館に毎年集まる5人の女たち。

異母妹、その姪、血の繋がった直接の姪、そのまた異母妹、編集者。

時子の死は自殺か、それとも殺人か。

疑い、畏れ、尊敬。それぞれが抱く愛憎と矜持が、燻っていた疑惑の蓋を開ける。


物書きの業とプライドが、血の呪いを乗り越えていく心理ミステリー。

不穏にも関わらず、5人の女たちの調和も不協和音も愉しめる。

5人は賢明にして謎に対して好戦的、時子という呪縛を背負う同胞として連帯する。

弔いの三日間、彼女らは終始己と向き合うことになる。物書きとして生きていくことを選ばざるを得なかった自分、常に越えられない壁・天才時子の影。


女たちが非常によく飲みよく食べる。頭を使い続けてあぁでもないこうでもないと言葉を交わし合う様が好きだ。

江國香織の「思い煩うことなく愉しく生きよ」も、女たちがとにかくよく飲みよく食べるが、それ以来の豪快でしつこい飲み食いぶり。

同じ対象に畏怖を感じつつ、昇華方法は各々異なる表現になる。境遇を供にしつつも、結局は一人一人独立して進みゆく有様は、姉妹的でまさに若草物語だ。互いのクセの強さに怯みつつ認め合い、憎からず思う関係性。女たちの密やかに張り巡らされた尊敬と競争心、しかし惑わされずに己の道を極めようとする芯の強さが読んでいて頼もしい。


今回、脳内キャスティングも大成功。


時子:麻生祐未

死んだ耽美派女流作家。強烈なカリスマ。

死後も簡単には遺された者たちを解放しない蛇のような人間。


静子:長谷川京子

時子の異母妹。リーダー格。芸術系出版プロダクション社長。

華麗な容姿にして明晰、抜け目ないことこの上ない、敵に回したくない人物。


絵里子:松たか子

静子の姪。ノンフィクションライター。冷静かつ泥臭く思考し続ける探偵役。時子と唯一血の繋がりがない。

ものすごいヘビースモーカー。


尚美:深津絵里

時子の姪。神経質なお嬢様タイプ。

湊かなえのような売れっ子主婦作家で、サスペンスの名手。叔母への追慕がコンプレックスにも。

人一倍自分の書くものへの執念深さとプライドがある。


つかさ:小池栄子

尚美の異母妹。

川上未映子風な若手純文学作家。

歯科技工士のかたわら、描き続けていた小説で芥川賞的な受賞で鮮烈デビュー。

一番ツンケンしている末っ子と見せかけて実は繊細。


えい子:斉藤由貴

編集者。時子を見出し育て、二人三脚で盛り立てた。時子の死後も館に住まい、弔いの木曜日に皆を出迎える。料理に達者で三日間怒涛のもてなしを見せる。とにかく作品を取ることに貪欲。


甘く見られない、ただでは転ばない曲者ばかりである。

結末に驚かされつつ、彼女らの連帯と自負のぶつかり合いが非常に好ましかった。

緩やかな緊張の心地よさが続く、女たちの豪華競演の一作。