さすがにアヒージョ

最愛の人が何人もいるタイプ

嫌いなあの子がくれたポーチ


ぬるいお湯に浸かっているうちにオフィーリアになる。浸かっているというより湯に漬けられた。食べ物ならとっくに茹で過ぎ。私はといえば、とりとめもない思考とじんわり汗。


風立ちぬのファイル、コクリコ坂の下敷き、ポニョのキーホルダー。

観に行ってないのに、私にはいつもジブリ最新作のグッズがあった。

大抵、私以外の家族で見に行ったもののお土産。

素直な私はそれらを学校に持っていき、使っていた。

「あ、見たんだこれ!おもしろかったよね!」

すまん。観ていないのだ。そのキャラの名前すら知らないのだ。


ポニョはさすがに知ってた。ポニョ!そーすけ!すきー!の魚。スポンジ素材のその子は友達皆がぶにぶに触りに来るうちに、キーホルダーの継ぎ目からやんわりと千切れた。



情のないものを長く使い続けること。

自分で好きで買った物と同じくらい、意思と関係なく与えられた物とも長い付き合いになることがある。


ある嫌いな子がいた。その子と仲が良かった時にもらったおみやげのポーチを、嫌いになった後も随分長く使っていた。しかも毎日、使い倒すと言ってもいいほどの馴染みっぷりで。


昔の私はその子に嫉妬したり、軽蔑したりで心を忙しくしていた。その子が私の好きな歌を口ずさんでいたらたちまち好きな曲が汚れてしまった気がした。私の好きだった友達がその子に取られたような気がした。その子が披露する人間関係や生活の華やかさに嫉妬した。その子の持論を軽蔑した。どこで間違えたんだろうと思った。あの素敵なカフェを教えてくれた時、私だけに分けてくれたお気に入りだと思ってしまったんだ。


こんなにどろどろした怨念があったのとは裏腹に、そのポーチははらりと軽やかに佇み続けていた。洗濯に出す前に汚れものを一時的にしまうもの。汗の染みた靴下やらタイツやらタオルやら下着やら。嫌いなあの子がくれたポーチはこんなにも使いやすい。夜中に風呂場で笑いが小さくこみ上げる。


そういえばあのポーチ、どこに行ったのかしら。