ぬるい湯船に浸かっている時のとりとめない思考。私はそれを特別視していて、何なら真理だと思っている。湯に浸した私から浮かんでくる灰汁取り。
窓を開ける季節。他人が近くで生活してることを思い知らされる。
おっきい笑い声、外国の言葉、卓球の音、掃除機の音、絶え間ない暴走族。
今この瞬間も無数の生活が同時に進行中。
小さな風呂桶に身を収めている私、知ろうとしなければ誰の何も新しく知ることはない。
清涼感を第一にしたミントシャンプーは使うと指通りがゴキュゴキュになる。イルカの体の表面を撫でたらこんな感じだと思う。
並行して何冊かの本を読んでいると、共通するメッセージに出会うことがある。きっと無意識に自センサーが敏感になっているから。探していた命題に気づく。ジャンルを超えて同じ真理に到着するのだ。
川上未映子著「ウィステリアと三人の女たち」の一編「シャンデリア」。
図らずも手に入れてしまった大金を持て余す主人公。法外な報酬は、彼女から全ての実感を奪った。何でも手に入れられるけど何も欲しくない。最下層で必死に生きてた母をてっぺんから思い返すことになったけど、こんなヒエラルキー自体が空虚だ。
エルメス、シャネル、フェンディ、ドルガバ。
知らない世界が緻密に描写される。
嫌味を積んで積んで最後にスパッと切れる話なのだが、ハイブランド顧客の描写で急にバンタンのことを思い出した。
あー、こんな店の最VIPなんだろうなぁ。
そりゃもう一生使いきれないお金があるだろうし。野球選手とサッカー選手の年俸はいつも私を混乱させる天文学的な数字だけど、きっとそれどころじゃない。
世界に面が割れてて巨大な好意と派生する悪意に晒されて、無数の人々の幸福度を左右してる人たち。
一人の人間のキャパシティを超えた天命を与えられて、達成し続ける彼ら。途方もないことだ。
急にバンタンが担うすべての莫大さに気が遠くなる。
本人の意図を超えて広がり続ける領域。
一人一つしかない身体の中で、彼らの心は健在ですか?
巨大過ぎる営み。わかりやすくお金に変換するしかないのだから、縁のない莫大な響きの数字になるのは当然。
わかっちゃいるけど急に遠く感じる。近いわけがないのだが。
降りしきる功罪は金額で贖える域を超えている。
少しでも彼らの心が大切にされ、健やかに過ごせるようにと願う。