さすがにアヒージョ

最愛の人が何人もいるタイプ

夏休みの読書感想文①少年検閲官

悪意を排除するためにミステリが淘汰され、焚書によって書物が絶滅させられた世界。すっかり無知な人々は殺人はおろか悪意すら理解できない。読んでいてもどかしく、反発心すら芽生えるのだが、そこに主人公クリスと少年検閲官エノの二人が鮮やかな色彩を持って挑んでいく。エノはその世界を正当化するための歯車でありながらも、存在のあり方は彼が淘汰しているはずの探偵であることがとても皮肉だ。灰色の世界で躍動する二人のキャラクターを楽しむ物語として私は読んだ。


「そっけないくせに何処か人懐こい感じのする澄ました態度」

エノの言葉が無機質なまでに簡潔なのは極限まで無駄を削がれたせい。「私には心がないんだ」。少年検閲官という機能のためだけの存在。しかし本能に備わった彼の聡さは外圧より一枚も二枚も上手で、自分に欠落したものがあると理解している。喪失を認識して、それを補うために主人公クリスに近づいたのだ。

好奇心と責任感に突き動かされ奔走するクリス。彼の健気さを見守らずにはいられない。そしてクリスの視点を通し、本来なら恐れるべき存在のエノにかわいらしさを見出せるうれしさ。物をすぐに散らかすこどもっぽさはいとしい。しかし一人では外に出られない、命令には従順なところは、コントロールするために都合よく設計された存在であることが顕著に感じられて悲しい。


共闘し絆芽生えた二人はこの先敵対せずにまた笑い合えるのか。そして「ここはそういうものだから。」と諦めることなくクリスは世界に挑み続けていけるのか。祈るような気持ちで二人の別れを見届けた。


「少年検閲官」

北山 猛邦著