さすがにアヒージョ

最愛の人が何人もいるタイプ

タバスコ瓶の裏/マナトとジュノンの声

 

頼んだコーヒーにはミルクと砂糖が添えられていて、ふふん 私にはいらないよ 毎日ブラックで飲んでるもの。と口をつけてすぐに前言撤回。しおらしくミルクを入れると、もくもくと湧き出るミルクの様子が入道雲みたくて見とれた。あら、こんなに奥からすべてが真っ黒だったのね。

私は毎日さるチェーン店でコーヒーを飲んでいるのだが、今週ようやく注文の仕方がわかった。アメリカンが私にとってちょうど良い濃さなのだ。そのお店には目だけ横浜流星のバイトがいる。目より下はマスクの秘密。ひどくぎこちないイントネーションで注文を復唱する彼の出身地はいずこ。きっと北の方じゃないかと思う。

今私は喫茶店にいる。散々前を通ったことはあったのに、いざ入るのは初めてだ。仕事の話をしている中高年が多い。あとは阿佐ヶ谷姉妹似のおばさま方など。食べたものは80点くらいの味だったけど満足。なんだか食べてる間脳内がよく動いて一人しゃべりが捗ったから。

スパゲティに粉チーズとタバスコを添えてくれる店は好きだ。どちらも絶対使いたい!というわけではないのだが、持ってきてくれた時にうっすらとうれしい。せっかくなので半分ほど食べた地点で振りかけてみる。タバスコは味それよりも、ビンの裏面に書いてある文がいいんだよ。
「オーク樽で3年間熟成された昔から変わることのない製法。どんなお料理もおいしく変えるホットソースのスタンダード。」それはそれは。君には敵わないよ、と若干まぶしい気持ちになる。振りかけてみてうーん、別にこんな味よね、と平熱に引き戻されるまでがセット。

今週まずかったのは、常備薬を切らしたせいで月のものが始まったこと。なんて恐ろしい薬なんだろうか。こないだ終わったばかりだと言うのに。ホルモンのせいか仕事中むやみに悲惨な気持ちになった。私はいらない荷物なんだ、できない私の処遇に困ってるんだ、いつ厳重注意を受けてしまうのか…等々、被害妄想が膨れ上がる。特に何かやらかしたわけでもないのに。ホルモンのせいだ。気が強そうに見えて気が弱いのが私である。バレているだろうが。

そんなわけで、仕方なく婦人科に行ってきた。BE:FIRSTのライブに着て行こうと思って買ったジージャンを今日おろすのは非常に癪である。デビューが婦人科ではこの4万円の一張羅も浮かばれない。しかし伊達ではなかったこのジージャン。行き先は婦人科なのにトータルでとてもおしゃれな格好になってしまった。こんなところで実力を出さなくても…とやや苦々しい気持ちになる。これはもう、終わったら寄り道しよう。

先生はともすれば歳下にも見えるおねえさんだった。薬を切らしてしまったので月のものがまた始まった状態だと伝えるも「今日は子宮頸がんの検診をしますがいいですか?」と圧巻のスルースキルを見せる先生。「今生理がすごいので、今日はやめた方がいいと思いますよ」と訴えるとようやく伝わったらしく、「では次回にしましょうか」とハッとした顔の先生。

歩いて大きな駅に向かう。摩天楼の下を歩く中で聴くBE:FIRST。先陣切って高層ビル群を駆き分けていくマナトの歌声にハッとする。青信号を待ちながら、常勝軍であろうとするBE:FIRSTのあり様が好きだと思う。考えを少し進めて、マナトとジュノンの歌声の佇まいについて思いを馳せる。マナトの歌声は秀才だ。例えば歌舞伎役者が子どもの頃から修行を積んで様々な技を獲得してきたように、マナトも端正な型をたくさん持っていると思う。丁寧に手入れされた声は一つ一つの技を確実に発揮して、また新しい色を獲得していく。歌に求道的なマナトが好きだ。

対してジュノンの歌声は野生的だ。言うなれば天才型の声。彼が「自分はどうやら歌がうまいらしい」と自覚したのはいつなんだろう。無邪気なまでに自在に飛び回るその声は、訓練を積んできた者たちにはある種驚異的だったであろう。残酷なまでに雄弁な声。歌声自体が意思を持っているように響き渡り、その場を制圧する。否応なしに耳に飛び込むその声は稲妻のようだ。体感で培われてきたジュノンの野生の声が、体系化された技術の習得でさらに覚醒していく。私たちはその目撃者になる。

などと考えていたら一時間くらい経ってた。土曜日は素敵だ。